『侍タイムスリッパー』の面白さを映画を観ない“妻”で物語る※ネタバレなし・レビュー

2024年8月17日、池袋シネマ・ロサに“侍”が降り立った。やがてその侍は話題を呼び、全国の大手シネコンで上映されるまでにいたる。2025年、第48回日本アカデミー賞では見事 最優秀作品賞に輝き、インディーズ映画でありながらも凄まじい快挙を成し遂げた。

その映画こそ、巷でウワサの『侍タイムスリッパー』である。

かくゆう筆者も、名前だけは知っていたものの、なかなか仕事の都合が合わずに観賞を見送りにしていた。だが、動画配信サービスで早くも登場したとあり、映画館に行けないことを引け目に感じながらも、夜な夜な妻を付き合わせてプロジェクターで観賞した。

ビリビリどっかーん!

みくと

お…おもれー!

滅多に映画を観ない妻も、珍しく釘付けに。夜の12時になろうかという時間でありながら、僕は殺陣の構えを真似しながら観賞していた。観終わったあとの満足度は、ディズニーランドで21時にゲートを潜った時のような感覚で、名残惜しさもありながら凄まじい幸福感に満ち溢れていた。

妻がどれだけ映画を観ないかは、おそらく映画好きには想像しづらいだろう。月に一本すらまともに観ないし、もっと言えば一年に2本くらい観たらいい方だ。今まで観賞した作品は『ワイルド・スピード』シリーズにディズニー映画数本とジブリ映画2本。その他うろ覚えの洋画と邦画がちらほらあるだけである。

映画好きの僕と付き合ってからも映画はあまり観ない。だから無理やりIMAX上映の『E.T.』に付き合わせたり、動画配信サービスで名作を一緒に観たりした。が、あまり響いてはいないようだった。そこで『E.T.』を観た直後に放った感想をご紹介しておこう。

古い映画の質感って見たことがなかったから新鮮だった!

ほう。なかなかユニークな感想を口にするものだな。

とまあ、こんな感じの妻である。僕が「これは面白いだろう!」と確信を持っていても、妻の心はあまり盛り上がらない。再生してすぐに飽きてしまう。だから『侍タイムスリッパー』は僕も未鑑賞のまま、期待値も何もなくただ一緒に観賞することにしたのだ。

それがどうだろう。観た後に妻が「面白かった」と、素直に認めたのである。稲妻が走り、骨の髄までしびれてしまった…。

目次

侍タイムスリッパーが誰しもの心に響く理由

古き良き時代劇の良さを今に残しつつ、殺陣の魅力をふんだんに盛り込んだ興味をそそる映画。作り手の意志と想い、それと愛情が感じられる飛びっきりの良作だ。

侍タイムスリッパーが誰しもの心に響く理由は、その「想い」の部分に宿る。

「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」で衣装を担当した古賀さんや美術の辻野さんなど、東映の時代劇全盛期を支えた裏方さんたちが、本作に並々ならぬ愛を注いでいる。作中には、斬られ役として名を馳せた“福本清三”さんへ対するリスペクトが込められており、時代劇を知る今のご年配の方々が胸を熱くする仕掛けも盛りだくさんだ。

福本清三
出典:https://eiga.com/person/62231/gallery/0137616/

例えば、主人公の高坂新左衛門(山口馬木也)の師匠となる人物、関本(峰 蘭太郎)の袴には、福本清三さんの名がある。これは、生前の福本清三さんが着ていた本人の袴だ。また、作中に高坂新左衛門は、白い模様がついた黒の着物を着ている。これは「福本清三さんといえばこの服」とわかるほど有名な福本清三さんの衣装だ。高坂新左衛門は、この福本清三さんの黒い衣装を着ながら、福本清三さんの代名詞であるえび反りで斬られている

このようなオマージュは、時代劇のファンにしかわからないかもしれない。だが、その熱意や作り手の想いは、物語だけをとってもビンビンに伝わってくるのだ。だからこそ、おじいさんやおばあさんだけでなく、若者も楽しめる作品となっている。

物語は、本物の“侍”が現代にタイムスリップしてくるという筋書き。王道にしてベタな設定ではあるものの、京都にある東映のセットをそのまま映し、時代劇を撮り続ける人々の想いを直接的に語っているため、メッセージ性がある。このメッセージ性が時代劇に詳しくもない若者はもちろん、僕の妻のように映画すらまともに見ない人々に伝わり、唯一無二の存在感を放って記憶へと刻まれていくのだ。

出典:https://eiga.com/movie/100886/gallery/12/

時代劇の制作費が10億円を超えてもおかしくない現代で、自主制作映画として撮るにはお金がかかるうえに難しいと言われたが、『侍タイムスリッパー』の制作費はおおよそ2,500万円だった。安田監督は車を売ってまでどうにか予算を確保し、本作に臨んだ。

当初は斬られ役の名優、福本清三さんを主人公の殺陣の師匠としてキャスティングしていたものの、撮影の前年に亡くなってしまう。しかし、福本さんの縁で繋がったプロデューサーの進藤さんが、本作を制作にまでこぎ着け『侍タイムスリッパー』が完成する。

安田監督の時代劇への愛と情熱と物語の斬新さ、時代劇を愛する東映のスタッフたちによって侍は現代に呼び起こされたのだ。

出典:https://eiga.com/movie/100886/gallery/12/

作中は関西ならではのコテコテの笑いが散りばめられながらも、物語が進むにつれてきちんとサプライズ(驚き)もある。掴みも笑いも展開も申し分ないまま、気がついたら我々は本作の世界に魅入られている。時代劇を見たことがないだけでなく、歴史に興味もなければ映画も観ない妻でさえ、この時代劇は楽しめた。つまり、それほどまでにストーリーが面白いということだ。

そして迎えるラストシーン。

出典:https://eiga.com/movie/100886/gallery/12/

老若男女すべての人が惹きつけられる圧倒的なクライマックスが用意された。起承転結の「結」の部分が、ものの見事にスクリーンへと映し出される。この演出に引き込まれない人間は、おそらくいないのではないだろうかと思うほど、夜の闇がブラックホールと化して我々の目を画面に吸い寄せる。

現に僕も妻も、ラストは画面に釘付けに。滅多に映画を観ないだけでなく、映像に引き込まれることのない妻でさえ、目の玉が画面から離れなかったのだ。

ラストのシーンは、長い長い間が置かれている。「デンジャラス・ツアー」で魅せたマイケル・ジャクソンの登場シーンに匹敵するあの興奮と緊迫感は、そう味わえるものではない。二人の役者が本気で挑み、作り上げたラストシーン。固唾を飲んで二人を見守るスタッフと観客一同。これ以上ない結末に、心がスッと鞘に収まる心地よさを感じる。

ともかく、笑いも涙も、熱意もふんだんに盛り込まれた本作は、日本人の魂に深く呼応することだろう。2024年8月17日に公開し、2025年の日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞。誰しもの心に響いたことが、快挙として証明された。

映画好きなら…?いや、日本人なら全ての人が観ておくべき作品だ。できれば映画館で。

侍タイムスリッパーの上映館(2025年4月)

侍タイムスリッパーは、全国各地でまだまだ上映が続くようだ。下記の劇場情報でお近くの映画館を探してみてほしい。

東京の上映館:https://gaga.ne.jp/samutai/theater/
神奈川・千葉の上映館:https://gaga.ne.jp/samutai/theater/

どうしても観られない方は!『侍タイムスリッパー』を配信サービスで観よう

どーーーーしても!映画館に観に行けない方は、アマプラで最速配信されているため、見逃さず観てほしい。

U-NEXTでは2025年時点でポイント(399円)で観られるようになっている。

侍タイムスリッパーのあらすじ・概要

『侍タイムスリッパー』あらすじ

幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門は、家老から長州藩士を討つよう密命を受ける。しかし、標的の男と刃を交えた瞬間、突如として落雷に見舞われ、気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。新左衛門は江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、愕然とする。死を覚悟するほど絶望に打ちひしがれるも、撮影所の助監督である山本優子やお寺の夫婦に助けられ、次第に生きる希望を取り戻していく。やがて、剣の腕一本で生き抜く覚悟を決めた新左衛門は、撮影所の門を叩き、斬られ役として新たな人生を歩み始める。

『侍タイムスリッパー』概要

【監督】
安田淳一

【出演】
山口馬木也(高坂新左衛門)

冨家ノリマサ(風見恭一郎)

山本優子(沙倉ゆうの)

峰蘭太郎(殺陣師:関本)

【日本劇場公開日】
2024年8月17日

【時間】
131分

【国】
日本

『侍タイムスリッパー』の感想まとめ

『侍タイムスリッパー』は、現代に再び侍を呼び覚ました傑作時代劇。誰しもが作り手の想いに触れ、ユニークな物語を目の当たりにし、心を震わせる。

こんなにも面白い作品は、久しぶりだった。ありがとう、侍タイムスリッパー!妻もまた少し、映画が好きになっただろう!

作り手さんの熱い想いも感じられて感動した!本当に面白かったよ!

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この記事を書いた人

中学高校で映画にハマり、20歳までに鑑賞した作品は1,000を超える。
現在はフリーライターとして、映画のコラムや企業のホームページなどの執筆を担当。映画のジャンルは問わず、面白そうな作品はなるべく映画館で鑑賞する“映画館好き”でもある。

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