【横浜の映画好きへ】ジャック&ベティの支配人・梶原さんが語るミニシアターの価値とは?

ジャック&ベティ

シネマ・ジャック&ベティは、横浜市中区の若葉町にある昔ながらの哀愁漂う映画館だ。大手シネマコンプレックス(以下シネコン)のように、スクリーンが10個もあって大きなビルの中にあるわけでもない。町の商店街から一歩外れたところにある、小さな映画館である。

今日はジャック&ベティの支配人である梶原(かじわら)さんに、映画館の良さについて語っていただいた。

みくと

お忙しい中お時間を取ってくださった梶原さんには、本当に感謝しかありません。ありがとうございました。

さて、そもそもジャック&ベティは、どのようにして歴史を紡いできたのだろうか。映画館としての軌跡をたどりながら、梶原さんが思う“映画館の良さ”やシネコンに対する思い、ミニシアターの価値について聞いてみた。特にシネコンについては、映画ファンも気になることではないだろうか。

ーーぶっちゃけ、大手シネコンのことをどう思っていますか?

「そうですね、シネコンのことは……」梶原さんが語ったこととは一体……。

目次

脱サラしてまで「ジャック&ベティ」を引き継いだ本当の理由

ジャック&ベティ
ジャック&ベティ 入り口

“シネマ・ジャック&ベティ”は、1991年に“横浜名画座”を引き継いでオープンした。もともと横浜名画座として運営されていた映画館は、1952年の終戦後に開館している。それを含めると、非常に長い歴史がある映画館なのだ。

梶原さん「私はもともと、サラリーマンだったんです。1991年に新たなスタートを切ったジャック&ベティでしたが、実は2005年に再び閉館したことがあるんですよ。その後、一年を経たずして別の会社が再建を試みオープンしたものの、やっぱり軌道に乗らず、経営は苦しいものでした。そんな時に、地域の活動を通して関わりのあった私たちに、ジャック&ベティを引き継がないかという話が出てきたのです」

今年(2024年)ですでに33年もの年月を重ねたジャック&ベティ。何度も荒波に揉まれながらも、ここまで存続し続けてきたのは、やはり誰かがこの映画館を愛してきたからだろう。

ジャック&ベティ
ジャック&ベティ支配人・梶原さん

梶原さん「私も当時はサラリーマンでしたので、映画館を引き継ぐとなれば、会社を辞めなければなりませんでした。ただ、ジャック&ベティの経営が厳しいことも知っていましたし、このままいくと再び閉館してしまうかもしれない……と思って、意を決して脱サラし、支配人となりました」

梶原さんは、引き継ぎの話を断ったら、また閉館してしまうかもしれないという危惧を抱き、立ち上がった。2007年の3月から支配人として劇場を経営することになったが、最初はお客さんの入りが厳しかったそうだ。周りでも小さい映画館は軒並み閉まってゆき、代わりに大手シネコンが台頭し始めた。

梶原さん「周りにもミニシアター系の作品を上映する場所がなくなってきました。なので、私たちはミニシアター系作品を引っ張ってきて、大手シネコンさんでは観られないような映画を映したのです」

脱サラをして映画館の経営をすることになった梶原さん。周りが閉館していく中で、大手シネコンとの共存を図りつつ今にいたるまで歴史を紡いできた。

ぶっちゃけ大手シネコンのことは、どう思っているのですか?

ジャック&ベティ
ジャック&ベティ 階段上

いまや大手シネコンが牛耳る映画業界。映像も音響も技術が進歩し、映画を観るためには最高の空間が提供されている。だが、大手シネコンの陰には、幾多のミニシアターが閉館を余儀なくされている。当然ながら、それは時代の流れであり大手シネコンを否定する理由にはならない。ただ、個人的にすごく気になっていたことがあったので質問してみた。

ーーぶっちゃけ大手シネコンのことは、どう思っているのですか?

梶原さん「シネコンさんのこと…。」

僕があまりにも突飛で意地の悪い質問してしまったため、梶原さんを困らせてしまった。しかし、しばしの沈黙のあとに語られた言葉は、ジャック&ベティに対する強い愛を感じるものだった。

梶原さん「今や映画館のほとんどが大手シネコンと呼ばれる大きな映画館です。大手シネコンさんのことは、どうのってことはありません。ただ、ジャック&ベティはシネコンさんではやらない作品を上映し、差別化を図り、なんとしてでも単館系映画館を成り立たせたいと思っています」

近年では、いわゆるミニシアターと呼ばれるジャック&ベティのような単館系映画館が、相次いで閉館している。実際に、現在は大手シネコンが全国のスクリーン数の88.8%を占めており、単館系映画館の存在が消えつつあることを示している。
※参照:藝術電影館通信

ジャック&ベティ
コーヒーの他に、地元のお店のパンやクッキーなども販売されている。

梶原さん「ミニシアターには大手シネコンさんみたく、コンセッション(飲食売店)ができる設備はないけど、映画好きの方にしっかり来てもらえるようにしたいですね」

大手シネコンは、ポップコーンやドリンクなどの飲食売店で売り上げを立てている一方、ミニシアターのようにコンセッションを設けるほどの設備がない映画館では、売り上げをつくるのにも一苦労である。

韓国やアメリカなどでは、アート系の上映をやる映画館に補助金が出るそうだが、残念ながら日本にそのような制度はない。だからこそ、ミニシアターでは大手シネコンではやらないような作品を上映し、映画を愛する人たちの拠り所として存在し続ける意義があるのだろう。

ちなみにジャック&ベティでは、食べ物や飲み物の飲み食いが自由。他のお客さんに迷惑にならなければ、好きなおやつとともに鑑賞できる。

「やっぱり映画館で映画を観ていただきたい」家で観られる時代だからこそ映画館に行く理由

ジャック&ベティ
支配人の梶原さんがお出迎え

ーー長年に渡り「シネマ・ジャック&ベティ」でお客さまに作品を届けてきた梶原さんにとって、“映画館の良さ”って何だと思いますか?

梶原さん「そうですね、映画館の良さは、不特定多数の人と遮断された暗闇の中で、映画を集中して観られることだと思います。お客さんが少ないだとか、多いだとか、そんなようなことを考えながら自分のチョイスした作品の盛況ぶりを確認するのも面白いですね。映画館は家よりも大きなスクリーンで、臨場感を味わえるから良いです」

ジャック&ベティ
ジャック&ベティチ ケット売り場

映画館で映画を観る際に、スクリーンにどれだけ人が入っているかを気にしたことがある方も多いはず。まさに僕もその一人である。「この作品は、あまり人気がないのだろうか」とか、余計なことを考えているのもたしかに楽しい。作品の良し悪しを決めるわけではないが、お客さんの量を見て自分が選んだ映画のセンスを確かめたりもする。

梶原さん「ミニシアターは町との繋がりが強いので、町ごと楽しめるのも魅力です。大手シネコンさんがあるビルなどにも飲食店はあるけれど、ある程度はチェーン化したお店だと思います。もちろん、それはそれで良いと思います。一方でミニシアターの周辺には、その町にしかない個性的なお店がたくさん。映画を観る前でも観た後でも構わないから、近くのお店に入って腹ごしらえしたり、映画の話で盛り上がったりできるのがミニシアターの良さです」

映画館に行き、町を楽しむことで思い出が残る。サブスクで簡単に家で観られるようになったからこそ、映画館に来て映画を観ることが1番贅沢な時間になる。梶原さんの熱い言葉に、深く頷きながらも感動を覚えた。

ジャック&ベティ
ジャック&ベティ外観

梶原さん「やっぱり映画館で映画を観ていただきたい。若い人にも。ただ、映画館で映画を観る良さは、言葉で伝えるのが難しい……。」

この嘆きはきっと、梶原さんを含め全国で映画館を営んでいる方の叫びだろう。僕はこの言葉を全力で受け止めて、これからも映画館の良さを発信していきたい。そして、映画館で映画を観て感動してくれる人を増やしていきたいと思う。

梶原さんの語る“映画館の良さ”を実感しに、ぜひジャック&ベティに足を運んで映画を鑑賞してみてはいかがだろうか。そして映画を鑑賞後は、黄金町を散策してみても楽しいはずだ。古き良き町並みとお店を巡り、映画館に行くという体験を通して思い出になるだろう。

みくと

梶原さん、貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました!

シネマ・ジャック&ベティ へ行こう!

〒231-0056 横浜市中区若葉町3-51 Google Mapsで見る

TEL. 045-243-9800

  • 京浜急行線 黄金町駅下車 徒歩5分
  • 横浜市営地下鉄 阪東橋駅下車 徒歩7分
  • JR線 関内駅北口下車 徒歩15分

※阪東橋駅では改札にて劇場までの地図をお受け取りいただけます。

  • 最寄りのバス停「横浜橋」

<市営バス>

  • 2系統(港南車庫前ーみなと赤十字病院)
  • 32系統(保土ケ谷車庫前ー日本大通り駅県庁前/関内駅北口)
  • 79系統(平和台折返場ー日本大通り駅県庁前/関内駅北口)
  • 113系統(磯子車庫前ー桜木町駅前)

<相鉄バス>

  • 旭4(美立橋ー桜木町駅)

<神奈中バス>

  • 戸03(戸塚駅東口ー県庁入口)
  • 東06(東戸塚駅東口ー県庁入口)
  • 横43、横44(戸塚駅東口ー横浜駅東口)
  • 港61(港南台駅ー横浜駅東口)
  • 船20(大船駅ー桜木町駅前)
映画ライターみくと

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    この記事を書いた人

    中学高校で映画にハマり、20歳までに鑑賞した作品は1,000を超える。
    現在はフリーライターとして、映画のコラムや企業のホームページなどの執筆を担当。映画のジャンルは問わず、面白そうな作品はなるべく映画館で鑑賞する“映画館好き”でもある。

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